著作権と新規事業~リブライズ~


著作権侵害の解決・契約・活用を研究する弁護士ブログ
「プロのための著作権研究所」所長(所員なし,募集中)
の弁護士・診断士の柿沼太一です。

日本の著作権法はあまりに厳しすぎて,新規事業の足かせ
になっているという主張もよく聞かれます。

それが正しいかどうかは別として,著作物を利用した
新規事業を検討する場合,当該事業の仕組が著作権法
に抵触しないか否かは非常に重要なポイントです。

今日は「リブライズ」という注目すべき新サービスを
紹介し,どのようにして著作権法の問題をクリアして
いるのかを検討したいと思います。

1 リブライズについて
この事業は,簡単にいうと、カフェやコワーキング
スペースなど、本が集まる場所を図書館にしてしまう
サービスです。

概要は,
・ カフェやコワーキングスペースなどの本棚を図書館
(「ブックスポット」と呼んでいます)として登録し,
当該ブックスポット内の書籍も登録する。
・ ブックスポットや書籍の登録に必要なのはFacebook
アカウントとバーコードリーダーのみ。本の表紙写真や
タイトル、説明はアマゾンから抽出されるため登録は容易。
・ 当該ブックスポット,及びブックスポットに存在する
書籍情報はネット上に公開され,自由に検索可能。
・ 書籍の貸し出しを希望する人は当該ブックスポット
に行き,無償で書籍を借りる。
・ 本を借りる際は、登録時に発行された自分専用の
貸出カード画面をスキャンしてもらうのみ。また、貸し借り
の履歴はFacebookページに記録されていく。
というものです。

紹介記事はこちら。

この手のサービスでは,まずスタートのしやすさ,
障害の低さが非常に重要になります。

リブライズについては,ブックスポットの開設や,
ユーザー登録の容易さということになりますね。

これらの手続をFacebookアカウントやクラウドを利用して
行うことで極めて簡易にしているところが,まず優れている
と思います。

次に,登録後の利用が容易であることも当然重要なの
ですが,ここでもFacebookを利用することで,情報の
管理,参照がブックスポット側にとってもユーザー側
にとっても非常に簡単になります。

これまで,書籍の貸出事業をしようと思えば,事業者側
でデータベースを作成し,その情報を管理しなければなり
ませんし,ユーザー側が当該データベースにアクセスする
ことも容易ではありませんでした。

これをFacebookを利用することで一気に乗り越えたという
点も,優れていると思います。

こういうサービスを見ていると,Facebookのような
「個人情報を蓄積,管理するシステム」と融合させること
で,既存のサービスの利便性が格段に向上することがある,
ということがよくわかります。

2 著作権法の問題
さて,このように「リブライズ」は非常に魅力的な
サービスなのですが,著作権法上全く問題が無いので
しょうか。

リブライズは,書籍の貸し借りには関与せず,直接
書籍の貸借を行っているのは,ブックスポットの運営者
とユーザーです。

したがって,まず,このブックスポットの運営者と
ユーザーの書籍の貸借が著作権法上どのような問題があるか
を検討する必要があります。

著作物の貸借に関する条文を確認しておきましょう。

(貸与権)
第二十六条の三  著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。

すなわち,貸与権(「著作物を貸す権利」)も著作者が持っている
ということです。

貸与権を著作者が持っている,ということは,著作者の
許諾無く著作物を貸与した場合,原則として著作権侵害
になる,ということです。

もっとも,非営利かつ無償の貸与については,著作権法
38条4項で権利が制限されていますので,当該条項
に該当すれば,著作権侵害ではない,ということになります。

条文はこれ。

(営利を目的としない上演等)
第38条
1~3(省略)
4  公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。

したがって,リブライズのサービスにおいては,
ブックスポットの運営者とユーザーの書籍の貸借が
この条文に該当するかどうかが問題となります。

特に「営利を目的とせず」「その複製物の貸与を受ける
者から料金を受けない場合」の要件ですね。

まず「その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない
場合」については問題ありません。
リブライズの利用規約においては,書籍の貸借は無償
としているからです。

「営利を目的とせず」については慎重に検討する必要
があります。

この「営利目的」については,かなり広く解されており,
仮に著作物の利用によって直接の収益を上げないとしても,
間接的に営利につながるものであれば「営利目的」である,
と一般的には解釈されています。

たとえば,音楽の演奏について言えば
・ 工場におけるBGMの演奏は,それによって直接利益
を得るわけではないが,BGMの演奏によって作業能率を
上げ,その結果として生産性を向上させるためだから
「営利目的」に該当する

・ 喫茶店におけるレコード演奏は,ミュージックチャージ
等を徴収していない場合でも,客へのサービスとして音楽を
演奏することで客の来集を期待しているものだから「営利目的」
に該当する
とされています。

「営利目的」をあまりに広く解釈することには,個人的には
大きな疑問がありますが,それはともかくとして,リブライズ
というサービスにおいては,ブックスポットの運営者と
ユーザーの書籍の貸借について「営利目的」があるか否か
が著作権法上の1つのポイントとなるでしょう。

もちろん,リブライズ自身は書籍の貸借には直接関与して
いないわけですから,その点も十分に考慮されるべきです。

3 まとめ
このように,新規事業を開始する際には著作権法に抵触
しないか否か,ということを慎重に検討する必要があります。

ただし,100%法的リスクがない新規事業というものは
おそらく存在しません。

わたしもこれまで,起業家の方などから,色々新規事業
の相談を受けてきました。

その中には「100%違法です」と断言できるものはあり
ましたが,「100%安全です」というものは全くありません
でした。

ですので,新規事業の法的リスクを問われた意見書において
「100%安全です」という意見を書いたことは一度もあり
ません(おそらく他の弁護士もそうだと思いますが)。

事業者としてはいかにリスクをとっていくか,
ということの経営判断を迫られるわけです。

ここらへんについては別ブログで
「リスクをとるということ」
「どんなときにリスクをとるべきなのか」
「ネットと著作権」
の3部作?として書いていますので,興味がある方は是非ご覧ください。

今日はここまで。

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著作権における権利処理の怖さと難しさ


著作権侵害の解決・契約・活用を研究する弁護士ブログ
「プロのための著作権研究所」所長(所員なし,募集中)
の弁護士・診断士の柿沼太一です。

今日は,著作権を扱うプロであれば当然意識しておくべき「権利処理」
の怖さと難しさについてです。

<問>
今年TV局に入社したばかりの新人です。
尊敬できる先輩から,「他社が制作した映像や記事を利用する場合の『権利処理』
については特に気をつけるように」と厳命されています。「権利処理」というのは,
「著作権について怒られないように,著作権者からOKを貰うこと」と理解している
のですが,それがそんなに難しいことなのでしょうか。

<答え>
「権利処理」というのは「著作権について怒られないように,著作権者からOKを
貰うこと」という理解でだいたい合っているのですが,もう少し正確に言うと

  1. 利用しようとする著作物について
  2. 権利を保有する全ての権利者から
  3. 著作権の譲渡または使用許諾を受けること

です。

とくに2について,自分では「すべての権利者の許諾を貰っている」と思っていても,
実は別の権利者がいることがありますので,十分に気をつける必要があります。

万が一それに気づかずに著作物を利用してしまうと,著作権侵害ということで,
損害賠償請求をされたり,せっかく制作した番組を放送できないということにもなりかねません。
あなたの尊敬する先輩の立場も台無しです。

これが権利処理の難しさと怖さです。

今日は,その「権利処理の難しさと怖さ」をよく教えてくれる判例を
1つ紹介したいと思います。

「パンシロントリム事件」(大阪地裁平成11年7月8日判決)です。

まず,イラスト1-1~1-3を見てください。

この3枚のイラストは,A製薬会社が販売していた「パンシロントリム」
という胃腸薬の包装箱やチラシ、商品リーフレット、サンプル用小冊子など
に掲載されていたものです。覚えていらっしゃる方も多いかもしれませんね。

画像1-1

イラスト1-1

画像1-2

イラスト1-2

画像1-3

イラスト1-3

この3枚のイラストは,オリジナルのイラストでは無く,元ネタがあります。
それがイラスト2です。

A製薬会社(実際には,A製薬会社がデザイン制作を委託したデザイン会社)が,
イラスト2をもとにイラスト1-1~1-3を制作し,商品パッケージ等に
利用する際には,当然イラスト2の著作権者と交渉をしていました。

A製薬会社としては,当然これで「権利処理」は済んでいたと安心していた
ことでしょう。これは無理からぬことだと思います。

画像2

イラスト2

しかし,実はこのイラスト2は,下のイラスト3をもとに(もちろん,
イラスト3の著作権者の許諾を得て)制作されたものだったのです。

イラスト3の著作権者は,フランスのデザイナーであるBだったのですが,
とすると,このイラスト2は,イラスト3の複製物ということになります。

画像3

イラスト3

要するに
イラスト3→イラスト2→イラスト1
という順序で創作されたことになります。

これを前提とすると,イラスト3が原著作物,イラスト2はイラスト3の
複製物ないし二次的著作物ということになります。

原著作権者は,二次的著作物の利用に関し,二次的著作物の著作者と同一の
種類の権利を有します(著作権法28条)。

したがって,イラスト1を制作する際には,イラスト2の著作権者の許諾
のみならず,イラスト3の著作権者の許諾も得なければなりませんでした。

しかし,(いろいろ理由はあって,必ずしもA製薬会社を責められないと
思いますが),A製薬会社はそれに気づかず,イラスト3の著作権者である
Bの許諾を得ずにイラスト1を制作,使用したため,Bから損害賠償請求
をされたのです。

裁判所はBの訴えを認め,A製薬会社による著作権侵害を認定しました。
ちなみに裁判所が認容した損害額は2908万4627円です。

このように,権利処理は 「これで大丈夫」と思っていても,実はそこに
落とし穴があることもあるのです。くれぐれも慎重に行ってください。

今日はここまで。

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著作権違反なの?番組制作でのネット情報の利用


「プロのための著作権研究所」所長(所員なし,募集中)
の弁護士・診断士の柿沼太一です。

今日は,TV番組制作においてネット上の情報を利用
する場合の注意点です。

<問い>
ニュース番組のディレクターをしています。

1 ネット上に掲載されている時事ネタをもとに取材,
番組構成をすること
2 ネット上に掲載されている記事内容をそのまま番組
で読み上げたり,テロップで流すこと
3 ネット上の画面を撮影して番組で流すこと

は著作権法上なにか問題があるのでしょうか。

<答え>
番組制作に際してネット上の情報を利用すること
は多々あることだと思います。

その場合,特に権利者の許諾を得ることなく利用
できることもありますし,許諾を得なければ利用
できない場合もあります。

1 ネット上の記事は自由に利用できる?
・ ネット上の書き込み記事は短いものが多いので,
そもそも著作物とは言えない」
・ ネット上に公開されている記事はコピーされる
ことを当然の前提としているので,黙示の利用許諾があ
り,自由に利用できる
・ 匿名の執筆者は著作権を放棄しているのだから,
そのような執筆者によるネット上の記事は自由に利用
できる

このご時世に,このような認識の方はあまりいない
と思いますが,念のためにコメントしておくと,
これらはいずれも誤りです(書き込みの内容によっ
ては著作物性が否定されるものもありますが)。

著作物性のある記事であれば,誰か著作権者
が存在するはずであり,著作権の存続期間中に
それらの記事を無断複製等すれば,一発で著作
権侵害になります。

少し古い事件になりますが,「ホテル・ジャン
キーズ事件」(東京地裁平成14年4月15日
判決)というのがあります。

これは,ホテルに関する情報を書き込める無料
掲示板サイト「ホテル・ジャンキーズ」に書き込まれた
口コミ情報を,サイト運営者と出版社が,サイト
ユーザーに無断で書籍として出版した事件です。

ユーザー達は,そのような出版行為は,口コミに関して
自分たちが有する著作権を侵害するものであるとして
書籍の出版の差止め及び損害賠償金の支払を求め,
裁判所もそれを一部認めました。

この事件では,被告側(サイト運営者と出版社)は,
・ 書き込まれた文章は、事実の報告又は感想にすぎず、
その表現もありふれた平凡なものでだから著作物とは言えない。

・ 匿名で書き込みをした者は、自らが書き込んだ文章に対して
責任を負うことはないのであるから、原告各記述についての著作権を
認める必要はない。

・ 本件掲示板へ書き込みをする者は、同掲示板へ書き込みをした
内容について著作権を主張しないという暗黙の了解があった。

と主張しましたが,いずれも裁判所によって
退けられました(ただし,一部の書き込みについ
ては著作物性が否定されました)。

さすがに「ネット上の記事は自由に利用できる」と誤解をしている
方はいないと思いますが,念のため。

2 ネット上に掲載されている時事ネタをもとに
取材,番組構成をすることは著作権法上問題がある?

これは,「著作権法違反なの?企画のパクリ」
で書いたことがそのままあてはまります。

詳しいことはその記事を見ていただくとして,
結論としては「アイデア(企画)は著作権法上
保護されるものではないから,企画を真似るこ
とは原則として問題がない」ということです。

これを本件についてあてはめると,ネット上
の時事ネタをそのまま利用するのでは無く,あ
くまでアイデアとして利用するのであれば,
著作権法上問題は無い,ということになります。

2 ネット上に掲載されている記事内容をその
まま番組で読み上げたり,テロップで流すこと
は著作権法上問題がある?

これは質問の3つ目の「3 ネット上の画面を
撮影して番組で流すことは著作権法上問題
がある?」と同じ答えになります。

まず,ネット上に掲載されている記事の内容
が著作物とは言えない場合があります。

たとえば,事実をそのまま記載しているとか,
表現が短すぎる場合,あるいは極めて一般的な
内容の場合は,創作性がないですから著作物には
該当しません。

その場合は,自由に利用が出来るということ
になります。

これに対して,表現にある程度の長さがある
場合には,内容にもよりますが,著作物性が
あることがほとんどです。

したがってそれらの著作物を,著作権者に無断で番組
で読み上げたりテロップで流したり,画面を撮影して
番組で流すことは,原則として著作権侵害ということ
になります。

もっとも,「引用」「報道目的利用」に該当する場合
は,著作権者に許諾を得なくとも利用できます。

「引用」については「引用は著作権を侵害するのか?」で,
報道目的利用については「著作権と報道」で簡単に触れました。

報道目的利用の場合は,
① 当該事件を構成(する著作物)
または
② 当該事件の過程において見られ,若しくは聞かれる著作物
が必要だということでしたね。

たとえば,
・ 闇サイトを利用した爆破予告事件における
当該爆破予告
・ 出会い系サイトの利用者が被害に遭った
暴行事件における被害者や加害者の投稿内容
・ ネットオークションを利用した取り込み
詐欺事件における出品画面
などの画面を撮影,放送することは
「① 当該事件を構成(する著作物)」として
報道目的利用ということになると思われます。

また,
映画や音楽の違法ダウンロードサイトの紹介番組において,
当該サイトを紹介し,その紹介の家庭において
映画や音楽を部分的に再生すること
などは「② 当該事件の過程において見られ,
若しくは聞かれる著作物」になるでしょう。

今日はここまで。

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