著作権法改正,「写り込み」の具体例

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著作権侵害の解決・契約・活用を研究する弁護士ブログ
「プロのための著作権研究所」所長(所員なし,募集中)
の弁護士・診断士の柿沼太一です。

今日は,平成24年の著作権法改正「写り込み」についての
具体例をご紹介しようと思います。

【質問】
お客様からご依頼頂き、有償で運動会・カラオケ大会,ピアノ
発表会,結婚式などのイベントを撮影してDVDをお渡しする
業務を行っています。
各イベント会場では当方の意図とは関係なく音楽が流さ
れているので、そこでビデオ撮影をすると必ずビデオ内に音楽が収録
(複製)されてしまいますが,これは著作権法的にOKなのでしょうか。

【回答】
まず,前提として,ご質問の事例は,撮影の「過程」で音楽
が録音されてしまうケースです。

これと異なり,ビデオ作成,編集の過程において,BGM
として音楽を使用,複製するのは,当然のことながら著作権
者や著作隣接権者の許諾が必要ですので,ご注意ください。

ご質問の事例は,「写り込み」の問題ですね。

この点については

・ 著作権法改正における写り込みのOKとNG
・ 著作権法改正における写り込みの具体的事例

の記事で詳しく書きました。

■ もう一度おさらいすると

  • 「写り込み」といえど著作物を複製している以上原則として著作権侵害に該当するが,平成24年に改正された著作権法第30条の2の要件を満たせばOK
  • 適法に創作する際には「① 分離困難」「② 軽微性」「③ 著作権者の利益を不当に害しない」が必要(1項)。
  • 一旦この要件を満たして創作された著作物+付随著作物については「③ 著作権者の利益を不当に害しない」の要件さえ満たせば利用できる(2項)。

というものでした。

そして,私なりの解釈としては

  • ① 「分離困難性」として,撮影意図との関係で,本来の撮影対象としていたものか否か
  • ② 「軽微性」として 「写り込み」の対象の映像等に占める割合が物理的に小さいものかどうか
  • ③ 「著作権者の利益を不当に害しない」として,著作権者の著作物の利用市場とバッティングしたりあるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するか

がかなり重視されるのではないかと思われます,とお伝えしました。

これを前提に,ご質問の事例について考えてみましょう。

イベントの種類によってかなり状況が異なるように思います。

■ まず,運動会の場合,撮影意図は,撮影対象である子ども
の活躍っぷりや失敗ぶりでしょうから,音楽は本来の
撮影対象でないことは明らかだと思います。

また,屋外ですからかなりのノイズが入って音楽そのもの
を鑑賞するということもできないでしょう。

撮影も,対象となっている子どもが競技をしている部分に
限られると思うので,音楽は丸ごと一曲ではなく,切れ切れ
にしか入っていないと思います。

これを前提とすると,運動会の場合,「分離困難性」
も「軽微性」「著作権者の利益を不当に害しない」の要件
も満たし,適法とされる可能性が高いのではないかと思います。

■ カラオケ大会,ピアノの発表会,講演会などではどうか
,というのもなかなか悩ましい問題です。

大きなポイントは,「楽曲などの著作物そのものを本来の
撮影対象としているかどうか」でしょうね。

カラオケ大会やピアノの発表会は,もちろん「歌って
いる人」や「ピアノを弾いている人」を撮影対象にはし
ていますが,楽曲そのものも撮影対象となっていますから,
「写り込み」とは言えず,当該楽曲について権利処理が
必要となる可能性が高いと思います。

逆に,講演会においてBGMとして流れていた音楽
については,本来の視聴対象ではないので,「分離困難性」
「軽微性」の要件を満たすことになるのではないでしょうか。

■ これに対して結婚式の場合はどうでしょうか。

結婚式の場合,その場で流れる楽曲は,その場面の
雰囲気を形成するのに非常に重要な役割を占めています。

入場シーンでは華やかな楽曲,ご両親への挨拶や回想シーン
ではしみじみした楽曲,退場シーンでは二人の新生活を祝う
ような明るい楽曲などです。

もちろん,これは一例であって,どのような場面で,
どのような効果を期待して楽曲を選ぶかは新郎新婦が非常に
悩むところだと思います。

その意味において,結婚式における楽曲は,結婚式の雰囲気
を構成する非常に重要な要素と言えるでしょう。

結婚式の撮影における撮影意図は,式の雰囲気を忠実に
再現することでしょうから,この点が,まず運動会とは
決定的に違います。

また,楽曲が流れる結婚式は,通常屋内で開かれますし,
参加者が思い思いに大声でしゃべっているということも
(普通は)あまりないでしょうから,楽曲は,かなり明瞭,
明確に録音されることになると思います。

この点も運動会とは異なる点ですね。

さらに,録音・録画機器の高機能化によって,
「その場で流れている音楽が不可避的に録音される」のと
「編集過程においてBGMとして使用する」のを比較した場合
,再生される楽曲のクオリティー的にはあまり変わらなく
なってきているのではないかと思います。

したがって,結論としては,結婚式の場合「分離困難性」
「軽微性」の要件を満たしていない,すなわち「写り込み」
の要件を満たさない可能性が高いのではないかと考えています。

今日はここまで。

<今日のまとめ>
・ 「写り込み」が適法になるには
① 分離困難
② 軽微性
③ 著作権者の利益を不当に害しない
が必要

・ プロが業務として運動会のビデオ撮影を行う際に
「写り込む」音楽については「写り込み」の要件を満た
し,適法となる可能性が高い。

・ その他のイベント撮影においては「楽曲などの
著作物そのものを本来の撮影対象としているかどう
か」が「写り込み」要件を満たすかどうかの大きなポイント。

・ 同じくプロが業務として結婚式のビデオ撮影を行う
際に「写り込む」音楽については「写り込み」の要件を
満たさない可能性が高い。

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著作権侵害?写真のトレース

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著作権侵害の解決・契約・活用を研究する弁護士ブログ
「プロのための著作権研究所」所長(所員なし,募集中)
の弁護士・診断士の柿沼太一です。

まずは本題よりも好評を頂いている料理写真です。

IMG_3760

 

・ 大根とツナのマヨネーズサラダ
・ カボチャのマッシュ
・ もやしとエリンギの蒸し物
・ ニラ玉
・ ブリの照り焼き
です。

カボチャのマッシュには,干しぶどうと無塩のナッツを砕いたもの
をたっぷり入れます。そうすると,マヨネーズを入れなくても美味しい!

ニラ玉は,通常溶き卵で作ると思いますが,このときは溶かずに
そのまま落としてみました。結論は・・やっぱりオーソドックスが一番。

さて,今日は,最近ネットで話題になっている「昆虫交尾図鑑」という書籍を
ネタに,写真のトレースについて考えてみたいと思います。

1 「昆虫交尾図鑑」について
「昆虫交尾図鑑」をご存じでしょうか。昨年の12月に出版された本です。

アマゾンの「内容紹介」を引用しますと,

(引用開始)
命を紡ぐ姿は、美しくて……バカっぽい。
時に美しく、時に狂気、時に滑稽で、時に哀しい。現役美大生が描く、
そんな虫たちの愛の営み25態。
(引用終了)

というもの。

昆虫の交尾時の様子を,写実的なイラストで表現した書籍です。

2 何が問題なのか
この本,ご存じの方も多いと思いますが,ネット上の写真を
トレース(模写)しただけの内容ではないか,と言うことで,
ネット上で大変な炎上騒ぎになりました。

書籍の元ネタとなったのではないかと言われている写真と,
書籍内のイラストを対比してみるとこんな感じです。

http://matome.naver.jp/odai/2138642307212674001?&page=1

確かによく似ていますね。

3 ポイントは「元ネタとなった写真の創作性の高さ」
まず,どうも「昆虫交尾図鑑」の著者の方が,ネット上の
写真をもとにしてイラストを作成したことは間違いない事実の
ようです。

この件で,著作権侵害となるかどうかのポイントは,まず元ネタとなった
写真の創作性の高さです。

もちろん,著作権法上,「写真」は著作物の一種とされています。
これは、被写体の選択やアングル等に個性が表れるためです。

もっとも,写真は絵画などと違って,撮影対象を機械的に忠実に
複製するものですから,その創作性にはかなりのばらつきがあります。

一番創作性が低いのは,証明用写真などですね。
このような写真の場合,創作性が低いのでそもとも著作物とすら
言えません。

逆に,著名写真家が撮影した芸術的・独創的な写真などは,
言うまでも無く高い創作性を持っているということになります。
たとえば,ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」などです
(撮影者が本当は誰かという点については,最近諸説あるようですが)。

4 元ネタ写真の「創作性」は著作権侵害の判断にどのように
関わってくるのか

過去の判例をみると、ある写真の創作性の程度が低い場合は、
著作権侵害となるのは当該写真をそのままコピーして利用した
ような場合にほぼ限定される、とした知財高裁の判決
(平成18年3月29日)があります。

この考え方に基づくと、逆に創作性の程度が高い写真なら、
『類似』(侵害)とみなされるものの範囲は広くなることになります。

つまりこういう図式です。

▼「元ネタの創作性が低い」=保護範囲が狭い=デッドコピー
でない限り,かなり似ていても「複製」ではない。

▼「元ネタの創作性が高い」=保護範囲が広い=デッドコピー
はもちろん,かなり広い範囲で「複製」となる。

キャプチャ003

*(クリックすると拡大します)
青い円が元ネタの創作性の高低を示しています。創作性が低け
れば狭い保護範囲,高ければ広い保護範囲,というイメージです。
そして,小さい円が,元ネタをもとに制作したものを示しています。

デッドコピーの場合(赤い円)は,狭い保護範囲内に入る
ので,元ネタの創作性が低くても「複製」に該当します。

逆に,かなり似ていてもデッドコピーでは無い場合
(黄色い円),狭い保護範囲には入らないが広い範囲に入るので,
元ネタの創作性が低ければ「複製」に該当せず,高ければ「複製」
に該当する,ということになります。

ちなみにここでいう「デッドコピー」とは「そのまんまコピー」
という意味です。トレースもこの「デッドコピー」の一種ですね。

5 結論
「昆虫交尾図鑑」に話を戻しますと,先ほど引用した写真やイラスト
からおわかりのように,元ネタ写真の創作性の程度は、その写真
ごとに様々です。

元ネタ写真の中には、この昆虫の交尾の様子を撮影しようと
思えば、誰が撮影しようとこのような写真になるだろう、という
写真(つまり,創作性が低い写真)もある一方で、一つの美的作品
と評価しうるような写真(創作性が高い写真)まであるように思います。

したがって,先ほど述べたように,元ネタ写真の保護範囲は狭い
ものから広いものまで様々,ということになります。

ただ、今回問題となっているイラストを、元ネタに
なったとされる写真と比較してみると、イラストは写真のほぼ
デッドコピーと言えそうです(先ほどの図表の赤い円部分)。

したがって、結論としては、元ネタとなった写真の
創作性の程度にかかわらず、これらのイラストは著作権侵害
の可能性が高い、ということになるでしょう。

今日はここまで。

<今日のまとめ>

  • ある写真をもとに複製物を作成した場合に,著作権侵害になるかどうかは,元ネタ写真の創作性の高低による。
  • 「元ネタの創作性が低い」=保護範囲が狭い=デッドコピーでない限り,かなり似ていても「複製」ではない。
  • 「元ネタの創作性が高い」=保護範囲が広い=デッドコピーはもちろん,かなり広い範囲で「複製」となる。

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著作隣接権って何?まずは実演家の権利から。

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著作権侵害の解決・契約・活用を研究する弁護士ブログ「プロのための著作権研究所」所長(所員なし,募集中)の弁護士・診断士の柿沼太一です。

まずは料理写真から行きましょうか。

IMG_3665

・ 白菜と豚バラ肉の重ね蒸し
・ 大根の間引き菜と牛挽肉の炒め物
・ カニかまとキャベツのコールスローサラダ
・ 万願寺唐辛子の焼き浸し
・ 椎茸の味噌のっけ焼き
です。

白菜と豚バラ肉の重ね蒸しは,よくやるのですが,いつもは,鍋に白菜と豚バラを交互に重ねてそのまま加熱するだけです。今回のように時間があるときには,小さな金属製パットにぎゅうぎゅう詰めにしてパットごと蒸します。そうすると,断面がきれいに仕上がるので,見た目もいいですね。ポン酢をかけて食べます。

さて,本題。今日は著作隣接権に関する記事です。

1 著作隣接権とは

皆さん,著作隣接権って聞いたことがあるでしょうか。
「著作権法に定められている何かの権利」なのですが,具体的に考えてみましょう。

まず,アイドルが歌っている音楽CDについて考えてみます。

音楽CDについては誰がどのような権利を持っているでしょうか(本当は,音楽出版社やプロダクションが契約に基づいて著作権や著作隣接権を取得していますが,それはとりあえずおいておきます。)。

音楽CDがどのようにしてできあがって最終消費者の手元に届くか,ということを考えれば良いのですが,まず,作詞家が詞を作り,作曲家が曲を作らなければ始まりませんね。

次に,完成した詩と曲についてアイドルが歌を歌います。そして歌った歌をレコード制作会社が録音し,CDをプレスして販売します。

つまり,超簡単に分解すると,音楽CDは
1 作詞
2 作曲
3 歌唱
4 録音
という過程を経て完成します。

このうち,どの部分について著作権が発生するのでしょうか。

1と2については著作権が発生するのはすぐにわかりますね。
詩は「言語の著作物」(法10条1項1号)で作詞者が著作権を有していますし,曲は「音楽の著作物」(法10条1項2号)で作曲者が著作権を有しています。

3と4はどうでしょうか。

ここで著作権法で「著作物」がどのように定義されているかを一度見てみましょう。

法律では,著作物は 「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義されています(法2条1項1号)

つまり「著作物」と言えるためには,「創作」が必要不可欠です。

しかし,3の「歌唱」や,4の「録音」については,無から有を「創作」している訳ではありませんね。したがって,「歌唱」や「録音」は著作物ではない,と言うことになります。

それでは,「歌唱」や「録音」した人には何の権利もないのでしょうか。

結論から言うと,「歌唱」や「録音」した人には著作権はないのですが,「著作隣接権」という権利が発生します。

どのような人が,どのような著作隣接権を持っているかは,これから詳しく見ていくのですが,そもそも,なぜこのような「著作隣接権」という権利が法律上規定されているのでしょうか。「創作」さえ保護すれば良いのであれば,著作者(著作物を創作した人)に著作権だけ認めれば良いようにも思えます。

これは,「創作」しただけでは著作物は世間に広まっていかないわけで,それらを「伝達・媒介」する存在が必要なためです。

「歌唱」(実演)や,「録音」(レコード製作)は,この「伝達・媒介」の一翼を担っているがゆえに「著作隣接権」という権利が与えられているのです。

「著作物の伝達・媒介」と言えば,もう1つ,重要なプレーヤーが無いでしょうか。ヒントは「一家に最低一台はある機械」です。

著作権セミナーでこういうヒントを出すと「パソコン!」や「タブレット!」と答える方がいるのですが,惜しいです。確かにパソコンやタブレットは現在,一家に一台はありますね。ただ,もっと古くからある機械,ないでしょうかね。

そう,TVです

TVは,まさに著作物の「伝達・媒介」を担っていますね。したがって,放送事業者(及び有線放送事業者)にも著作隣接権が与えられています。

とりあえず以上のことをまとめますと,著作権法は以下の三者について,著作隣接権という特殊な権利を与えて保護している,ということを押さえてください。

その1実演家
その2レコード製作者
その3放送事業者及び有線放送事業者

先ほどの例に戻ると,

曲を歌唱しているアイドルは「実演家」,アイドルが歌った曲を最初に録音したレコード制作会社が「レコード製作者」となります。

したがって,アイドルやレコード制作会社も「著作隣接権」という権利を持っていることになります(なお,先ほど書いたように,実際にはアイドルの著作隣接権やレコード制作会社の著作隣接権は契約によってプロダクション等に移転していることがほとんどなのですが,詳しくはまた別の機会に書きます。)

では,このような著作隣接権者の持っている権利の内容はどのようなものでしょうか。
順番に見ていきましょう。

今日はまず実演家の有する権利です。

2 実演家の有する権利の内容

(1) 「実演」「実演家」とは
 著作権法上
「実演」とは,

「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)」をいい,

「実演家」とは

「俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者」をいう

とされています。

 要するに,すでに存在する著作物(たとえば楽曲や脚本)を歌唱したり演じたりする人のことを実演家という訳です。

 私たちがテレビやネットで目にする歌手や俳優は,この「実演家」ということになりますね。

 では,「著作物でないもの」を歌唱したり演じたりする人はどうでしょうか。

 たとえば,手品師などは「手品」をしているわけですが,この「手品」を著作物ということは難しいと思います。
 したがって,手品師は「実演家」ではないようにも思えますが,先ほどの「実演」の定義で「これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む」としていますので,結論としては手品師も実演家ということになります。

(2) 実演家の有する権利

このような実演家は
 ・ 録音権・録画権
 ・ 放送権・有線放送権
 ・ 送信可能化権
 ・ 譲渡権
 ・ 貸与権等
 ・ 商業用レコードの二次使用
 という権利を持っています。

 全てを説明することは出来ないですし,退屈でしょうから,「録音権・録画権」に絞って説明します。

 著作権法では

第九十一条  実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。

としています。

 この条文だけを読むと,たとえば,すでに,ある歌手の演奏を録音したCDが発売されている場合,そのCDを勝手にコピーしたりネットにアップしたりする行為は,この「録音・録画」に該当しないように思えます。

 一般的に「録音」「録画」という言葉は,実演をCDやDVDなどのメディアに固定することを意味し,いったん固定された実演をさらに複製する行為は含まないからです。

 たとえば「あのTV番組,録画しておいて。頼む。」というのは,放送されているTV番組をレコーダー内のHDDに保存することを言いますよね。そのレコーダーに保存されている番組をさらにDVDにコピーする場合,「あの録画済のTV番組,ダビング(コピー)しておいて」といいますよね。「あの録画済ののTV番組,録画しておいて」とはいいません。

 しかし,著作権法上はこの「録音」「録画」について一般に使われている意味よりも広い意味を与えています。条文はこうです。

  • 録音:音を物に固定し、又はその固定物を増製すること(法2条1項13号)。
  • 録画:影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製すること(法2条1項14号)。

 つまり,単に音や影像を最初に固定するだけではなく,その固定したもの(たとえばCDやDVD)をさらに増製(つまりダビング,コピーなど)することも「録音」「録画」に含まれる,ということです。

 このため,先ほどの例でも,歌手は,自分のCDを勝手にコピーされたりネットにアップされた場合に,「録音権」の侵害ということで権利行使(損害賠償や差止請求)をすることができるのです。

(3) 物真似は実演家の権利を侵害するのか?

 著作権セミナーでよく皆さんにお聞きする質問があります。
 
 美川憲一が歌う「さそり座の女」という曲がありますね。
 これは「さそり座の女」という著作物(作詞者:斉藤律子,作曲者:中川博之)を美川憲一が実演しているわけです。
 ある日,新宿のショーパブで,知る人ぞ知るニューハーフ,かなえ君(仮名)がこの美川憲一が歌う「さそり座の女」を無極で物真似したとします。
 これは誰のどのような権利を侵害していることになるのでしょうか。
 図で言うとこういうことです。

キャプチャ001

 詩・曲という著作物をくるんでいる色つきの部分が実演(歌唱)としましょう。

 まず,美川憲一が歌う「さそり座の女」が収録されているCDから,美川憲一が歌う「さそり座の女」をそのままコピーしたり,ネットにアップする行為(デッドコピー)が,詩・曲という著作物の著作権と,美川憲一の実演に関する著作隣接権(録音権)を侵害していることは明らかです(図の上部分)。

 問題は,図の下部分です。

 無許諾で物真似している場合,無許諾で「演奏」しているわけですから,まず曲の著作権者(作詞者:斉藤律子,作曲者:中川博之)者が持つ演奏権(法22条)を侵害していることは明らかです。

 では,美川憲一の持つ著作隣接権(録音権)を侵害しているのでしょうか。

 結論から言うと,これは侵害していない,ということになります。その物真似がいかに美川憲一に似てても結論は同じです。

 実演家が持つ録音権とは,当該実演家の実演「そのもの」を録音したり,録音したものを複製した場合にのみ働く権利だからです。

 これは著作権との大きな違いです。

 したがって,いかに,かなえ君(仮名)の物真似が美川憲一に似ていると言っても,美川君は,自分の著作隣接権(録音権)侵害を主張できない,ということになります。

(4) ワンチャンス主義

 実演家が有する著作隣接権に関して重要なのが「ワンチャンス主義」と言われるものです。

 これは,簡単に言うと「俳優が一度映画出演(映画制作の過程においてその演技を録画すること)をOKした場合,その俳優は,映画のDVDやBD発売,ネット配信などの二次利用については権利を持ちませんよ」ということです。

 イメージで言うとこんな感じですかね。

キャプチャ002

著作権法91条2項に定められています。

(録音権及び録画権)
第九十一条  実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。
2  前項の規定は、同項に規定する権利を有する者の許諾を得て映画の著作物において録音され、又は録画された実演については、これを録音物(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)に録音する場合を除き、適用しない。

 ですから,俳優(実演家)としては,最初の映画の出演契約の際に二次利用のことについても定めておかないと,あとで「二次利用されるなんて聞いていないよ」と言っても後の祭り,ということです。

 最初の契約の際に,1回のみ許諾するかどうかのチャンスがあるということで「ワンチャンス主義」と言われています。

 なお,劇場用映画とTV番組とではワンチャンス主義の適用範囲について違いがありますので注意が必要です。

 まず,劇場用映画への出演契約は,通常その実演の「録音・録画」についての許諾を含んでいるものと解されます。したがって,劇場用映画の場合,出演契約さえ結んでいればワンチャンス主義が適用されるということになります。

 これに対して,TV番組に出演することを承諾しただけでは,その出演にかかる実演の録音・録画について承諾を与えたとは言えないとされています。
 これは,著作権法上,放送又は有線放送の許諾には録音・録画の許諾が含まれていないことからです(著作権法103条,63条4項)。

 したがって,TV番組の出演契約において「出演すること」「出演番組が放送されること」のみ承諾を得た場合は,ワンチャンス主義が適用されず,TV番組の二次利用についても俳優の承諾が必要ということになります。

 TV番組の制作会社側としては「出演すること」「出演番組が放送されること」だけでなく「実演を録音・録画すること」も出演契約に含めなければならないということです。もっとも,出演契約を締結する場合には,二次利用の場合も含めて契約締結するのが通常とは思いますが。

 逆に,俳優が出演契約を結ぶ場合には,このあたりについて慎重に判断しなければならないと言うことですね。私も気をつけるようにします。

<今日のまとめ>

  • 著作隣接権には,「実演家」「レコード製作者」「放送事業者及び有線放送事業者」 という三種類がある。
  • 実演家の有する著作隣接権のうち重要なのは「録音・録画」権である。
  • 「録音・録画」権には,録音・録画物をさらにコピーする権利も含む。
  • 録音・録画権については,「実演家が,映画の著作物で録音・録画することをいったん許諾した場合には,以後その権利は働かなくなる」というワンチャンス主義が適用される。

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