著作隣接権って何?まずは実演家の権利から。


著作隣接権って何?まずは実演家の権利から。著作権侵害の解決・契約・活用を研究する弁護士ブログ「プロのための著作権研究所」所長(所員なし,募集中)の弁護士・診断士の柿沼太一です。

まずは料理写真から行きましょうか。

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・ 白菜と豚バラ肉の重ね蒸し
・ 大根の間引き菜と牛挽肉の炒め物
・ カニかまとキャベツのコールスローサラダ
・ 万願寺唐辛子の焼き浸し
・ 椎茸の味噌のっけ焼き
です。

白菜と豚バラ肉の重ね蒸しは,よくやるのですが,いつもは,鍋に白菜と豚バラを交互に重ねてそのまま加熱するだけです。今回のように時間があるときには,小さな金属製パットにぎゅうぎゅう詰めにしてパットごと蒸します。そうすると,断面がきれいに仕上がるので,見た目もいいですね。ポン酢をかけて食べます。

さて,本題。今日は著作隣接権に関する記事です。

1 著作隣接権とは

皆さん,著作隣接権って聞いたことがあるでしょうか。
「著作権法に定められている何かの権利」なのですが,具体的に考えてみましょう。

まず,アイドルが歌っている音楽CDについて考えてみます。

音楽CDについては誰がどのような権利を持っているでしょうか(本当は,音楽出版社やプロダクションが契約に基づいて著作権や著作隣接権を取得していますが,それはとりあえずおいておきます。)。

音楽CDがどのようにしてできあがって最終消費者の手元に届くか,ということを考えれば良いのですが,まず,作詞家が詞を作り,作曲家が曲を作らなければ始まりませんね。

次に,完成した詩と曲についてアイドルが歌を歌います。そして歌った歌をレコード制作会社が録音し,CDをプレスして販売します。

つまり,超簡単に分解すると,音楽CDは
1 作詞
2 作曲
3 歌唱
4 録音
という過程を経て完成します。

このうち,どの部分について著作権が発生するのでしょうか。

1と2については著作権が発生するのはすぐにわかりますね。
詩は「言語の著作物」(法10条1項1号)で作詞者が著作権を有していますし,曲は「音楽の著作物」(法10条1項2号)で作曲者が著作権を有しています。

3と4はどうでしょうか。

ここで著作権法で「著作物」がどのように定義されているかを一度見てみましょう。

法律では,著作物は 「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義されています(法2条1項1号)

つまり「著作物」と言えるためには,「創作」が必要不可欠です。

しかし,3の「歌唱」や,4の「録音」については,無から有を「創作」している訳ではありませんね。したがって,「歌唱」や「録音」は著作物ではない,と言うことになります。

それでは,「歌唱」や「録音」した人には何の権利もないのでしょうか。

結論から言うと,「歌唱」や「録音」した人には著作権はないのですが,「著作隣接権」という権利が発生します。

どのような人が,どのような著作隣接権を持っているかは,これから詳しく見ていくのですが,そもそも,なぜこのような「著作隣接権」という権利が法律上規定されているのでしょうか。「創作」さえ保護すれば良いのであれば,著作者(著作物を創作した人)に著作権だけ認めれば良いようにも思えます。

これは,「創作」しただけでは著作物は世間に広まっていかないわけで,それらを「伝達・媒介」する存在が必要なためです。

「歌唱」(実演)や,「録音」(レコード製作)は,この「伝達・媒介」の一翼を担っているがゆえに「著作隣接権」という権利が与えられているのです。

「著作物の伝達・媒介」と言えば,もう1つ,重要なプレーヤーが無いでしょうか。ヒントは「一家に最低一台はある機械」です。

著作権セミナーでこういうヒントを出すと「パソコン!」や「タブレット!」と答える方がいるのですが,惜しいです。確かにパソコンやタブレットは現在,一家に一台はありますね。ただ,もっと古くからある機械,ないでしょうかね。

そう,TVです

TVは,まさに著作物の「伝達・媒介」を担っていますね。したがって,放送事業者(及び有線放送事業者)にも著作隣接権が与えられています。

とりあえず以上のことをまとめますと,著作権法は以下の三者について,著作隣接権という特殊な権利を与えて保護している,ということを押さえてください。

その1実演家
その2レコード製作者
その3放送事業者及び有線放送事業者

先ほどの例に戻ると,

曲を歌唱しているアイドルは「実演家」,アイドルが歌った曲を最初に録音したレコード制作会社が「レコード製作者」となります。

したがって,アイドルやレコード制作会社も「著作隣接権」という権利を持っていることになります(なお,先ほど書いたように,実際にはアイドルの著作隣接権やレコード制作会社の著作隣接権は契約によってプロダクション等に移転していることがほとんどなのですが,詳しくはまた別の機会に書きます。)

では,このような著作隣接権者の持っている権利の内容はどのようなものでしょうか。
順番に見ていきましょう。

今日はまず実演家の有する権利です。

2 実演家の有する権利の内容

(1) 「実演」「実演家」とは
 著作権法上
「実演」とは,

「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)」をいい,

「実演家」とは

「俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者」をいう

とされています。

 要するに,すでに存在する著作物(たとえば楽曲や脚本)を歌唱したり演じたりする人のことを実演家という訳です。

 私たちがテレビやネットで目にする歌手や俳優は,この「実演家」ということになりますね。

 では,「著作物でないもの」を歌唱したり演じたりする人はどうでしょうか。

 たとえば,手品師などは「手品」をしているわけですが,この「手品」を著作物ということは難しいと思います。
 したがって,手品師は「実演家」ではないようにも思えますが,先ほどの「実演」の定義で「これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む」としていますので,結論としては手品師も実演家ということになります。

(2) 実演家の有する権利

このような実演家は
 ・ 録音権・録画権
 ・ 放送権・有線放送権
 ・ 送信可能化権
 ・ 譲渡権
 ・ 貸与権等
 ・ 商業用レコードの二次使用
 という権利を持っています。

 全てを説明することは出来ないですし,退屈でしょうから,「録音権・録画権」に絞って説明します。

 著作権法では

第九十一条  実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。

としています。

 この条文だけを読むと,たとえば,すでに,ある歌手の演奏を録音したCDが発売されている場合,そのCDを勝手にコピーしたりネットにアップしたりする行為は,この「録音・録画」に該当しないように思えます。

 一般的に「録音」「録画」という言葉は,実演をCDやDVDなどのメディアに固定することを意味し,いったん固定された実演をさらに複製する行為は含まないからです。

 たとえば「あのTV番組,録画しておいて。頼む。」というのは,放送されているTV番組をレコーダー内のHDDに保存することを言いますよね。そのレコーダーに保存されている番組をさらにDVDにコピーする場合,「あの録画済のTV番組,ダビング(コピー)しておいて」といいますよね。「あの録画済ののTV番組,録画しておいて」とはいいません。

 しかし,著作権法上はこの「録音」「録画」について一般に使われている意味よりも広い意味を与えています。条文はこうです。

  • 録音:音を物に固定し、又はその固定物を増製すること(法2条1項13号)。
  • 録画:影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製すること(法2条1項14号)。

 つまり,単に音や影像を最初に固定するだけではなく,その固定したもの(たとえばCDやDVD)をさらに増製(つまりダビング,コピーなど)することも「録音」「録画」に含まれる,ということです。

 このため,先ほどの例でも,歌手は,自分のCDを勝手にコピーされたりネットにアップされた場合に,「録音権」の侵害ということで権利行使(損害賠償や差止請求)をすることができるのです。

(3) 物真似は実演家の権利を侵害するのか?

 著作権セミナーでよく皆さんにお聞きする質問があります。
 
 美川憲一が歌う「さそり座の女」という曲がありますね。
 これは「さそり座の女」という著作物(作詞者:斉藤律子,作曲者:中川博之)を美川憲一が実演しているわけです。
 ある日,新宿のショーパブで,知る人ぞ知るニューハーフ,かなえ君(仮名)がこの美川憲一が歌う「さそり座の女」を無極で物真似したとします。
 これは誰のどのような権利を侵害していることになるのでしょうか。
 図で言うとこういうことです。

キャプチャ001

 詩・曲という著作物をくるんでいる色つきの部分が実演(歌唱)としましょう。

 まず,美川憲一が歌う「さそり座の女」が収録されているCDから,美川憲一が歌う「さそり座の女」をそのままコピーしたり,ネットにアップする行為(デッドコピー)が,詩・曲という著作物の著作権と,美川憲一の実演に関する著作隣接権(録音権)を侵害していることは明らかです(図の上部分)。

 問題は,図の下部分です。

 無許諾で物真似している場合,無許諾で「演奏」しているわけですから,まず曲の著作権者(作詞者:斉藤律子,作曲者:中川博之)者が持つ演奏権(法22条)を侵害していることは明らかです。

 では,美川憲一の持つ著作隣接権(録音権)を侵害しているのでしょうか。

 結論から言うと,これは侵害していない,ということになります。その物真似がいかに美川憲一に似てても結論は同じです。

 実演家が持つ録音権とは,当該実演家の実演「そのもの」を録音したり,録音したものを複製した場合にのみ働く権利だからです。

 これは著作権との大きな違いです。

 したがって,いかに,かなえ君(仮名)の物真似が美川憲一に似ていると言っても,美川君は,自分の著作隣接権(録音権)侵害を主張できない,ということになります。

(4) ワンチャンス主義

 実演家が有する著作隣接権に関して重要なのが「ワンチャンス主義」と言われるものです。

 これは,簡単に言うと「俳優が一度映画出演(映画制作の過程においてその演技を録画すること)をOKした場合,その俳優は,映画のDVDやBD発売,ネット配信などの二次利用については権利を持ちませんよ」ということです。

 イメージで言うとこんな感じですかね。

キャプチャ002

著作権法91条2項に定められています。

(録音権及び録画権)
第九十一条  実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。
2  前項の規定は、同項に規定する権利を有する者の許諾を得て映画の著作物において録音され、又は録画された実演については、これを録音物(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)に録音する場合を除き、適用しない。

 ですから,俳優(実演家)としては,最初の映画の出演契約の際に二次利用のことについても定めておかないと,あとで「二次利用されるなんて聞いていないよ」と言っても後の祭り,ということです。

 最初の契約の際に,1回のみ許諾するかどうかのチャンスがあるということで「ワンチャンス主義」と言われています。

 なお,劇場用映画とTV番組とではワンチャンス主義の適用範囲について違いがありますので注意が必要です。

 まず,劇場用映画への出演契約は,通常その実演の「録音・録画」についての許諾を含んでいるものと解されます。したがって,劇場用映画の場合,出演契約さえ結んでいればワンチャンス主義が適用されるということになります。

 これに対して,TV番組に出演することを承諾しただけでは,その出演にかかる実演の録音・録画について承諾を与えたとは言えないとされています。
 これは,著作権法上,放送又は有線放送の許諾には録音・録画の許諾が含まれていないことからです(著作権法103条,63条4項)。

 したがって,TV番組の出演契約において「出演すること」「出演番組が放送されること」のみ承諾を得た場合は,ワンチャンス主義が適用されず,TV番組の二次利用についても俳優の承諾が必要ということになります。

 TV番組の制作会社側としては「出演すること」「出演番組が放送されること」だけでなく「実演を録音・録画すること」も出演契約に含めなければならないということです。もっとも,出演契約を締結する場合には,二次利用の場合も含めて契約締結するのが通常とは思いますが。

 逆に,俳優が出演契約を結ぶ場合には,このあたりについて慎重に判断しなければならないと言うことですね。私も気をつけるようにします。

<今日のまとめ>

  • 著作隣接権には,「実演家」「レコード製作者」「放送事業者及び有線放送事業者」 という三種類がある。
  • 実演家の有する著作隣接権のうち重要なのは「録音・録画」権である。
  • 「録音・録画」権には,録音・録画物をさらにコピーする権利も含む。
  • 録音・録画権については,「実演家が,映画の著作物で録音・録画することをいったん許諾した場合には,以後その権利は働かなくなる」というワンチャンス主義が適用される。

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