参考資料をもとに番組制作すると著作権違反になる?(2)


参考資料をもとに番組制作すると著作権違反になる?(2)著作権侵害の解決・契約・活用を研究する弁護士ブログ
「プロのための著作権研究所」所長(所員なし,募集中)
の弁護士・診断士の柿沼太一です。

今日は,「参考資料をもとに番組制作すると著作権違反になる?(1)」
に引き続き,番組制作に際して参考資料を利用する場合,
どのような点に気をつけるべきかという点について,
実際の裁判例をもとに書きたいと思います。

「参考資料をもとに番組制作すると著作権違反になる?(1)」
においては,このように説明しました,「江差追分事件」
(最高裁判所平成13年6月28日判決))。

1 ある参考資料を基に番組を制作した場合に,当該参考
資料の著作権を侵害するか否かについては,その参考資料の
「表現上の本質的な特徴」を真似しているかどうかによって
判断される。

2 ①思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など
表現それ自体でない部分
② 又は表現上の創作性がない部分
は「表現の本質的な特徴」ではない

最高裁が示している「表現上の本質的な特徴」のイメージ

最高裁が示している「表現上の本質的な特徴」のイメージ

今日は,「大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』」事件(第1審
:東京地裁平成16年12月24日判決,第2審:知財
高裁平成17年6月14日判決)について紹介したいと
思います。

1 事案の概要
この事件は,映画「七人の侍」の脚本家兼監督である
故黒澤明の相続人が,NHKの大河ドラマ
「武蔵 MUSASHI」第1回について,同番組の脚本
等が「七人の侍」の映画の脚本及び映画そのものを無断で
翻案したと主張して,著作権侵害等を理由に損害賠償請求
などを求めた事件です。

ちなみに「武蔵 MUSASHI」の原作は吉川英治の
「宮本武蔵」です。

結論としては,原告側の請求が棄却されましたが,
非常に面白い判決です。きっと裁判官はこの判決を書く
ために「七人の侍」を繰り返し繰り返し見たに違いあり
ません。

2 どこが類似?
原告側が「ここが類似している」と指摘したのは以下
の4点ですが,このうち①②について第1審の裁判所がどのよ
うに判断したか,について説明します(なお,正確には
,これらの4点が組み合わされることによって,原告
脚本全体が想起されるようになるとも主張していますが,
省略します)

① 村人が侍を雇って野武士と戦うというストーリー
② 脚本上の各場面の類似
③ 西田敏行の演じた内山半兵衛と志村喬の演じた
島田勘兵衛,寺田進の演じた追松と宮口精二の演じた久蔵の類似
④ 戦場や村に漂う霧及び豪雨の中の合戦の表現

3 ストーリーの類似性
まず,裁判所は,両脚本共に「野盗に狙われた弱者
に侍が雇われて,これを撃退する」というストーリー
上の共通点は認められるとしています。

しかし,「ストーリーの展開」と「テーマ」において
双方は相違している,とし,結論としては類似性を認めませんでした。

具体的には以下のとおりです。

(1) ストーリー展開の相違
「7人の侍」脚本においては
① 農民や侍たち等の複数の視点からストーリーを構築し
② 侍たちが農民と協力して野武士を撃退するという
ストーリー展開している。
一方,「武蔵」脚本においては
① 主人公の武蔵を軸にその視点からストーリーが
展開されている点や,
② 武蔵がほとんど独力で野盗の頭領を倒す点
においてストーリー展開が大きく異なる。

(2) テーマの相違
「7人の侍」脚本のテーマは,
一見非力な農民のした
たかさ,力強さがうたい上げられているのに対し,
「武蔵」脚本のテーマは,
青年武蔵が己の強さを自覚し
生き抜く誓いをたてるという1人の人間の成長の物語
というべきものでありテーマが異なる。

としています。

かなり両脚本の中身に踏み込んで判断している
ことがわかると思います。

このように,ストーリー展開やテーマが異なれば,
ストーリーの概要(あらすじ)が類似しているだけでは,
「表現上の本質的な特徴」が類似しているとは言えない,

ということになります。

しかし,どの程度ストーリー展開やテーマが異なれば
「表現上の本質的な特徴」が類似していないと言えるの
か,という点については,まさに事案ごとに異なるので
あって,なかなか一般化するのは難しいですね。

4 脚本上の各場面の類似性
類似しているとされている場面はいくつかあるのです
が,その中に,「侍の技量を確かめるために,戸口で不
意に打ちかかる」というものがあります。

たとえば「七人の侍」脚本では,「勝四郎が袋竹刀を
とって入口に身を隠し,戸口を通りかかる侍に打ちかか
ってその技量を試すという場面」,
「武蔵」脚本では
「お甲が戸の陰で棍棒を構え,小屋の中に入ってくる
又八に不意に打ちかかるという場面」です。

また,同様の場面として「七人の侍」脚本において
「戸口を通りかかる侍に打ちかかろうとしている勝四郎
に対し,浪人が,中に入ることなく,『誰方じゃ,冗談
が過ぎますぞ。』と声をかける場面」,
「武蔵」脚本では,「戸の陰に隠れた追松が真剣を抜いて
構えていたところ,半兵衛が足を止め,(冷静に)『真剣
で勝負をするというのは,何かわけがあるのかな。』と
声をかける場面」もあります。

両場面は,「目をつけた侍を戸口におびき寄せ,
戸陰に隠れた者が不意に打ちかかってその者の技量
を確かめようとしたところ,武芸に秀でた侍は隠れている
者の気配をあらかじめ察し,言葉で攻撃を制した。」
という点で共通します。

しかし,裁判所はこれらの場面について「表現の本
質的な特徴」が類似しているとは言えないとしました。

その理由は大きく分けて2つです。

1つは「このような場面設定自体は昔から見られる
ものであって『七人の侍』に特徴的なものではない」という点,
もう1つは,試される侍が具体的にいかなる対応を
したのかという点において両脚本は相違している,という点
です。

この中で,1つ目の「このような場面設定自体は
昔から見られるものであって『七人の侍』に特徴的
なものではない」がポイント
でしょうね。

裁判所が指摘したのは
① 古くから,くぐり戸や木戸口を通る必要がある
場合の武士の心得として,「刀かつぎの法」,
「刀かざしの法」(昼間でも,くぐり戸など狭い戸口
から入るときに,侍が必ず行う作法)などの防御の技法が
存していたこと

② 様々な武芸者の伝説伝承を集めた「本朝武芸小伝」
(1716年)の中の塚原卜伝に関するエピソード中に
似たようなエピソードがあること

③ 明治末期から大正時代にかけて少年に広く読まれた
「立川文庫」においても前記エピソードが取り上げられて
いること,

④ 吉川英治の「宮本武蔵」においても,異なる場面で
同じようなエピソードがあること

という点です。

そして,結論としては,「(このような)場面設定自体
は,江戸期の武芸者の逸話に少なからず見られるものであ
り,時代劇において達人の技量をはかる手段としてしばしば
用いられる手法ということができる」としています。

思い出してください。
最高裁はこう言っていましたね。

1 思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など
表現それ自体でない部分
2 又は表現上の創作性がない部分
は「表現の本質的な特徴」ではないから,その部分を
真似しても著作権侵害にならない(以上,「江差追分事件」
(最高裁判所平成13年6月28日判決))。

「大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』」事件」第1審判決が
言っている「このような場面設定自体は昔から見られる
ものであって『七人の侍』に特徴的なものではない」
というのは,そのような場面設定が,最高裁が言うところの,
「表現それ自体でない部分」あるいは
「表現上の創作性がない部分」に該当する,

ということでしょう。

裁判所はこのように各場面を対比して,結論としては,
すべての場面について「表現の本質的特徴」の類似性を
否定しました。

5 まとめ
脚本や映像の類似性が問題になった事件である
「大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』」事件」について簡単
に紹介しました。

この事件から導かれる教訓は,
・ 番組制作に際しては,できるだけ多数の参考文献
を参照すべし
・ ある特定の参考文献のみに記載されているような
エピソードを利用する場合には,表現の類似性について
慎重な配慮が必要

ということです。

実際,この裁判でNHKは,「場面設定がありふれ
ている」ということを立証するために複数の参考文献
を裁判所に提出しています。

実際のドラマ制作に際して,事前にこのような参考文献
全てをチェックしていたかどうかは不明ですが,
本当のところは,そこまでチェックする必要性がある,
ということでしょう。

今日はここまで。

 

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