著作権における権利処理の怖さと難しさ


著作権における権利処理の怖さと難しさ著作権侵害の解決・契約・活用を研究する弁護士ブログ
「プロのための著作権研究所」所長(所員なし,募集中)
の弁護士・診断士の柿沼太一です。

今日は,著作権を扱うプロであれば当然意識しておくべき「権利処理」
の怖さと難しさについてです。

<問>
今年TV局に入社したばかりの新人です。
尊敬できる先輩から,「他社が制作した映像や記事を利用する場合の『権利処理』
については特に気をつけるように」と厳命されています。「権利処理」というのは,
「著作権について怒られないように,著作権者からOKを貰うこと」と理解している
のですが,それがそんなに難しいことなのでしょうか。

<答え>
「権利処理」というのは「著作権について怒られないように,著作権者からOKを
貰うこと」という理解でだいたい合っているのですが,もう少し正確に言うと

  1. 利用しようとする著作物について
  2. 権利を保有する全ての権利者から
  3. 著作権の譲渡または使用許諾を受けること

です。

とくに2について,自分では「すべての権利者の許諾を貰っている」と思っていても,
実は別の権利者がいることがありますので,十分に気をつける必要があります。

万が一それに気づかずに著作物を利用してしまうと,著作権侵害ということで,
損害賠償請求をされたり,せっかく制作した番組を放送できないということにもなりかねません。
あなたの尊敬する先輩の立場も台無しです。

これが権利処理の難しさと怖さです。

今日は,その「権利処理の難しさと怖さ」をよく教えてくれる判例を
1つ紹介したいと思います。

「パンシロントリム事件」(大阪地裁平成11年7月8日判決)です。

まず,イラスト1-1~1-3を見てください。

この3枚のイラストは,A製薬会社が販売していた「パンシロントリム」
という胃腸薬の包装箱やチラシ、商品リーフレット、サンプル用小冊子など
に掲載されていたものです。覚えていらっしゃる方も多いかもしれませんね。

画像1-1

イラスト1-1

画像1-2

イラスト1-2

画像1-3

イラスト1-3

この3枚のイラストは,オリジナルのイラストでは無く,元ネタがあります。
それがイラスト2です。

A製薬会社(実際には,A製薬会社がデザイン制作を委託したデザイン会社)が,
イラスト2をもとにイラスト1-1~1-3を制作し,商品パッケージ等に
利用する際には,当然イラスト2の著作権者と交渉をしていました。

A製薬会社としては,当然これで「権利処理」は済んでいたと安心していた
ことでしょう。これは無理からぬことだと思います。

画像2

イラスト2

しかし,実はこのイラスト2は,下のイラスト3をもとに(もちろん,
イラスト3の著作権者の許諾を得て)制作されたものだったのです。

イラスト3の著作権者は,フランスのデザイナーであるBだったのですが,
とすると,このイラスト2は,イラスト3の複製物ということになります。

画像3

イラスト3

要するに
イラスト3→イラスト2→イラスト1
という順序で創作されたことになります。

これを前提とすると,イラスト3が原著作物,イラスト2はイラスト3の
複製物ないし二次的著作物ということになります。

原著作権者は,二次的著作物の利用に関し,二次的著作物の著作者と同一の
種類の権利を有します(著作権法28条)。

したがって,イラスト1を制作する際には,イラスト2の著作権者の許諾
のみならず,イラスト3の著作権者の許諾も得なければなりませんでした。

しかし,(いろいろ理由はあって,必ずしもA製薬会社を責められないと
思いますが),A製薬会社はそれに気づかず,イラスト3の著作権者である
Bの許諾を得ずにイラスト1を制作,使用したため,Bから損害賠償請求
をされたのです。

裁判所はBの訴えを認め,A製薬会社による著作権侵害を認定しました。
ちなみに裁判所が認容した損害額は2908万4627円です。

このように,権利処理は 「これで大丈夫」と思っていても,実はそこに
落とし穴があることもあるのです。くれぐれも慎重に行ってください。

今日はここまで。

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